Kichijoji, Musashino · Naishu
内周中古レコードの店ないしゅう/盤のいちばん内側いちばん最後の曲は、いちばん内側で鳴ります。
武蔵野市吉祥寺本町、中道通りの地下にある十四坪の中古レコード屋です。33⅓ と 45 と 78 を、およそ九千枚。このページには、回転数が何を決めていて何を決めていないのか、家のプレーヤーでかかるのかどうか、盤の状態をなぜ等級で書かないのか、そして売れるのに貸せないのはなぜかを書いてあります。盤を探しに来た人より、自分の機械を心配している人のために作りました。
- 中古レコード
- 33⅓ / 45 / 78
- 約9,000枚
- 全部、通しで聴いてから札を書きます
- CDは扱いません

About this photograph
- 1よその国の、よその店です。「FLORIDA Artist」と書いた仕切り札が立っているので、アメリカの店です。うちの棚ではありません。天井の高さも、通路の幅も、置いている枚数も違います。
- 2仕切り札に打ってあるのは全部、実在のミュージシャンの名前です。百枚以上あります。うちの在庫ではありません。壁の額に入っているのはゴールドディスクの記念盤で、実在のレーベルが実在の売上に対して作ったものです。うちの壁には何も掛かっていません。
- 3箱に入っているのは、ほとんどが CD です。ジュエルケースと、ボックスセットと、青い Blu-ray のケースと、DVD が混じっています。うちは CD を扱いません ── 理由は七の節に書いてありますが、短く言えば、CD には回転数がないからです。このページは全部、回転数の話でできています。
- 4人は一人も写っていません。うちも、お客さんは撮りません ── 何を掘っていたかは、その人のことです。
- 5この一枚に、レコードは三枚しか写っていません。一枚は「POP ROCK」と塗られて仕切りの看板になり、二枚は額に入って壁に留めてあります。つまりこの写真に写っている盤は全部、二度と回さないと決めたうえで壁に固定されたものです。うちのページは回転数の話なのに、写真の中に回っているものは一つもありません。うちが自分の店で撮っても同じです ── 回転は、写真に写らないからです。
Photo: Mick Haupt / Unsplash
How fast it turns
回転数のこと
一33⅓ / 45 / 78
レコードの回転数は三つしかありません。33⅓ と 45 と 78。速く回るほど、針の下を通る溝の長さが増えるので、入れられる音は良くなります ── そのかわり、同じ面積に入る時間は減ります。良さの順番ではなく、交換です。
- 33 1/3
LP(アルバム)
12インチ・0.7mil(丸針・楕円針)
0255075100内周 21 → 外周 51 cm/s(外は内の 2.4 倍)
いちばん枚数の多い盤です。片面に二十分から二十八分。長く入れるほど、最後の曲は内側で鳴ります。
- 45
12インチ・シングル(マキシ)
12インチ・0.7mil(丸針・楕円針)
0255075100内周 28 → 外周 69 cm/s(外は内の 2.4 倍)
LP と同じ大きさで、速く回します。うちの棚でいちばん良く鳴る盤はここにあります。そのかわり片面十分から十五分しか入りません。
- 45
シングル(ドーナツ盤)
7インチ・0.7mil(丸針・楕円針)
0255075100内周 24 → 外周 40 cm/s(外は内の 1.7 倍)
上と同じ 45回転ですが、半径が半分ちょっとしかないので、速さも半分ちょっとです。真ん中の穴が大きいのは、続けて自動でかける機械のためでした。
- 78
SP(シェラック盤)
10インチ・3.0mil(SP針)
0255075100内周 39 → 外周 96 cm/s(外は内の 2.5 倍)
いちばん速く回って、いちばん短く、いちばん雑音が多い盤です。塩化ビニルではなくシェラックで、溝はずっと太い。速さの話ではなく、別の規格です。
いちばん速く回る盤が、いちばん悪く鳴ります。78回転は毎秒 96cm ── LP のいちばん外側の倍近い速さで走りながら、いちばん雑音が多く、 いちばん短い。速さのせいではありません。材料も溝の太さも別のもの だからです。回転数は、同じ溝の規格の中でしか比べられません。
そして、回転数だけでは速さは決まりません。上の四枚のうち二枚は 同じ 45回転ですが、12インチは毎秒 69cm、7インチは 40cm しか出ません。 決めているのは半径です ── だから一枚の中でも、外と内で別の速さに なります。次の節がその話です。
The inner grooves
内周のこと
二51 → 21 cm/s
回転数は、面のはじめから終わりまで一定です。変わらないのは回転のほうで、針が読んでいる溝の速さは変わります ── 外側は一秒に半メートルほど進み、内側は半分以下しか進みません。同じ盤の、同じ回転数で。下の装置は、片面に何分入れると最後の溝がどれだけ遅くなるかを出したものです。
最後の溝の半径 86 mm
最初の曲は毎秒 51 cm、最後の曲は 毎秒 30 cm で 読まれます。
同じ盤の、同じ 33 1/3 回転で、 0.59 倍です。回転数は面のあいだじゅう一定で、変わっているのは半径の ほうです。
Where the needle ends up
cm/s ── 目盛りは四つの盤で共通です
溝の間隔は決め打ちです。本当は一枚ずつ違いますし、同じ面の中でも、静かなところは詰めて、大きい音のところは広げてあります(それを自動でやる仕掛けが、当時のカッティング機に付いていました)。ここで出るのは「だいたいこういう形になる」という形のほうで、その盤の実際の数字ではありません。
速さが落ちると、同じ一秒に読める溝の長さが減ります。高い音ほど溝の細かい曲がりでできているので、内側では先に苦しくなります ── 昔から「内周歪み」と呼ばれているのがこれです。盤が悪いのでも、針が悪いのでもありません。半径が小さいからです。
装置が「入りません」と答えたとき、道は三つありました。二枚に分ける、溝をもっと細くする、音を小さく刻む。どれも作った人が当時やったことで、今からできることは一つもありません。だから曲順を決めた人は、たいてい内周を見込んでいます ── 面のいちばん最後に、いちばん静かな曲が置いてあるのは、そのせいです。
Your turntable
家の機械のこと
三0.7 / 3.0 mil
うちがいちばん多く訊かれるのは、盤のことではなく機械のことです。そして、うちはその機械を見たことがありません。だからこの装置は、答えを三つしか持っていません ── かけられます、かけないでください、分かりません。「たぶん大丈夫です」は入れていません。
The answer
分かりません。
針が分からないと、答えようがありません。カートリッジの型番か、交換針の箱の字を見てください。盤を持ってくるより、プレーヤーの写真を撮ってきてもらったほうが早いです ── うちが見たいのは盤ではなく、あなたの機械のほうなので。
この装置に「たぶん大丈夫です」と返す道を作らなかったのは、慎重だからではありません。機械がこの建物に無いからです。うちが持っているのは盤についての知識で、あなたの家にあるのは機械です。二つが会うのは家のほうなので、そこで起きることについて、うちは何も保証できません。
Condition
盤の状態
四9,000枚
中古レコードには等級があります。M、NM、VG+、VG、G ── アメリカの収集家の雑誌が決めた並びで、法律でも規格でもありません。誰も定めていないし、誰も検査しません。うちはこれを盤には使わず、ジャケットにだけ使います。
The grades nobody made
- M
- 新品同様
- ジャケットにだけ
- NM
- ほぼ新品
- ジャケットにだけ
- VG+
- 使用感あり
- ジャケットにだけ
- VG
- はっきりした傷み
- ジャケットにだけ
- G
- かなりの傷み
- ジャケットにだけ
盤は、文章で書きます
札に書くのは等級ではなく、どこで何回かです ──「B面3曲目の頭、6回」「A面通してごく微か」。同じ「VG+」でも、一曲目の頭に一回と、通してずっとでは、買う人にとってまるで別の盤です。
傷は場所を持っています
記号は場所を捨てます。等級を一つ付けるというのは、盤のどこで起きたかを消して、一枚を均一なものとして扱うということです。うちのページが回転数について言っているのと、同じことです ── 一つの数では、一枚を言い表せません。
ジャケットには等級を使います
ジャケットには音がありません。角の擦れも、背の色褪せも、見れば分かることで、場所を書いても仕方がない。見た目のものを見た目の記号で書くのは、正しい道具の使いかたです。だから盤は文章、ジャケットは記号にしてあります。
札を書くために、全部を通しで聴いています。九千枚のうち、うちが聴いていない盤は一枚もありません ── 買取の日に一枚ずつかけているので、水曜が休みなのはそのためです。これは自慢ではなく、そうしないと札が書けないというだけの話です。
Sold, never lent
売れる、貸せない
五第26条の3
中古レコード屋が誰にも断らずに商売できているのは、法律の中に「一度売られたものについては、もう終わり」と書いてある一行があるからです。ところが同じ法律の少し先に、終わらない権利も書いてあります。売れて、貸せない。同じ一枚で。
著作権法 第26条の2第2項
売るのに、誰の許可も要りません
一度、適法に売られた一枚については、譲渡権が尽きています。だからそのあと何度売り買いされても、レコード会社にも演奏した人にも訊く必要がありません。中古の店が成り立っているのは、この一行のおかげです。ただし尽きているのは「この一枚」についてだけで、権利そのものが消えたわけではありません。同じ音源の、別の一枚は別の話です。
著作権法 第26条の2第2項(その一回について)
見本盤(非売品)は買いません
消尽は、過去に一度だけ起きた出来事です。うちの自由は、いつか誰かが一度その盤を適法に売った、その一回の余りでできています。見本盤 ── 白ラベルの、「見本盤」「非売品」と刷ってあるもの ── には、その一回があったのかどうかがはっきりしません。配られたもので、売られたものではないからです。だからうちは買いません。禁止されているからではありません。うちに確かめる手立てが無いからです。そして確かめられないのは、それが過去に起きたか起きなかったかの話で、いま誰かに訊けば済むことではないからです。
著作権法 第26条の3/第95条の3
同じ一枚を、貸すことはできません
貸与権は尽きません。売るほうの権利は一度で尽きて、貸すほうの権利は何度でも残ります ── 同じ一枚の上で、片方だけが尽きている。だからうちは、試聴機で聴いてもらうことはできても、持ち帰って聴いてもらうことはできません。それから、「レンタルは法律で禁止されている」も事実ではありません。貸レコードの店は今もあって、あれは権利者と契約を結んでいるだけです。つまりうちが貸さないのは、法が止めているからではなく、うちがその交渉をしていないからです。
著作権法 第22条の2ほか(演奏権)
店で鳴らしているぶんは、別の権利です
売る自由と、鳴らす自由は別の話です。店内でかけているものと試聴機のぶんについては、権利者の団体と包括の契約を結んで、毎年払っています。棚にある盤を自分の店で鳴らすのにお金が要るというのは、初めて聞くと妙な感じがしますが、売る権利と聴かせる権利が別々にできている、というだけのことです。
所管は文化庁です。許可を出す窓口でも、検査に来る役所でもありません ── ここでこの店に効いているのは、一度きり起きた出来事についての一行と、 何度でも残る権利についての一行、その二つだけです。同じ一枚の上で、 片方は尽きていて、片方は尽きていません。
Buying from you
買取のこと
六水曜
買取は水曜にやっています。古物商なので、手続きはどの古物商とも同じです ── 台帳をつけ、身分証を確認し、盗品と分かれば無償でお返しします。ここに書くのはその先の、レコードに特有の三つだけです。
- 許可
- 東京都公安委員会 古物商許可 第305510923746号
- 確認
- 住所・氏名・年齢・職業。十八歳未満からは買いません
- 日
- 水曜(店は閉めています)。一枚から、予約なしで
白カビの出た盤は買えません
ジャケットのカビは拭けます。盤面の白いカビは溝の中まで入っていて、洗っても音が戻らないことが多い。値がつかないという意味ではなく、うちが札を書けないという意味です。
見本盤は買いません
五の節に書いたとおりです。白ラベルや「非売品」の刷ってあるものは、お預かりもしていません。
枚数より、聴けるかどうかです
段ボール十箱でも、通して聴けない盤ばかりなら値はつきません。逆に十枚でも、全部きれいなら一日仕事になります。先に電話をください ── 水曜の何時からやるか、こちらの都合も言います。
You can bring it back
うちで買った盤は、聴いたうえで返せます。
十日以内、レシートがあれば、理由は要りません。聴いてから決めてもらうためにやっていることなので、「聴いてしまったから」は断る理由になりません。うちの札の書きかたが足りなかったということなので、そのほうがこちらは助かります。ただし、うちで買った盤だけです ── よそで買った盤の状態について、うちは何も言えません。
What we cannot do
できないこと
七8
方針ではなく、理由の一覧です。どれも理由が先にあるので、例外が作れません。読んで、それでもよその店のほうが都合がよければ、そちらで買ってください。
貸し出しはできません
五の節に書いたとおりです。売る権利は尽きていて、貸す権利は尽きていません。うちが交渉していないだけで、法が禁じているのではありません。
CDは扱いません
CDが悪いからではありません。CDには回転数がないからです ── 機械が勝手に速度を変えて、外周も内周も同じ速さで読みます。この店のやりかたは、斜めの光で溝を見て、通しで聴いて、どこで何回かを書く、というところまで全部が溝のために作ってあります。CDには、そのどれも使えません。
ジャケットの写真を、大きく載せられません
売ろうとしているものの画像には、政令で決まった上限があります(32,400画素)。うちはそもそもこのページにジャケットを一枚も載せていないので、この話はここで終わりです。
盤の等級(NM・VG+)を書きません
四の節に書いたとおりです。ジャケットには書きます。
「名盤」「オリジナル至上」とは書きません
どの盤が良いかは、聴く人と機械が決めます。うちが言えるのは、この一枚がどういう状態で、どこに傷があって、何回転で、どの針が要るか ── そこまでです。
ランキングを出しません
九千枚のうち、半分は年に一枚も動きません。そこで順位を出せば、それは「よく売れた盤」ではなく「箱の手前にあった盤」の一覧になります。
お客さんの掘っているところを、写しません
何を探していたかは、その人のことです。写真も撮りませんし、どこにも書きません。
家のプレーヤーの調整は、できません
針圧も、アームの高さも、機械の側の話です。うちは盤を売る店で、機械の店ではありません。三の節の装置が「分かりません」と答えるのも、同じ理由です。
From customers
お客さんから
八3
三つとも、起きたことの記述です。二つめは、何もお売りしなかった日の話です。
札に「B面最後、通して微か」と書いてあって、何のことか分からずに訊いたら、内周の話を十分されました。買った盤の最後の曲が、いちばん静かな曲でした。あれは偶然ではないのだと、あとで分かりました。
四十代・三鷹
父の遺した78回転を二十枚持っていったら、うちのプレーヤーではかけないでくださいと言われました。その日は何も買わずに帰って、針を買ってから出直しました。
五十代・杉並
十日以内なら返せると言われて、半信半疑で買って、結局返しませんでした。返せると思って聴くと、粗探しをしなくなるのだと気づきました。
三十代・武蔵野
The shop
店のこと
九14坪
吉祥寺の駅から六分、中道通りを西へ歩いて、二つめの角を右に入った地下です。地図は貼っていません ── 看板は階段の上に小さく出ています。十四坪で、箱が十二、試聴機が二台あります。
- 所在
- 東京都武蔵野市吉祥寺本町 2-14-7 中道ビル B1
- 行き方
- JR中央線・京王井の頭線 吉祥寺駅 北口より徒歩6分/中道通りを西へ、二つめの角を右、地下一階
- 電話
- 0422-51-8306
- 支払
- 現金・各種クレジットカード・QR決済
- 開業
- 2009年開業(二人でやっています)
- 休み
- 水曜が休みです(買取と検盤にあてています)
- 許可
- 東京都公安委員会 古物商許可 第305510923746号
What this page is for
いちばん最後の曲は、いちばん内側で鳴ります。
回転数は面のあいだじゅう変わらないのに、音は変わります。傷も同じで、 どこにあるかを書かなければ何も言ったことになりません。一つの数でも、 一つの記号でも、一枚は言い表せない ── このページはその一つの話だけを しています。
0422-51-8306